大判例

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東京高等裁判所 昭和25年(ネ)288号 判決

被控訴人らは連帯して控訴人に対し金一万円及びこれに対する昭和二十三年四月十六日以降支払ずみまで年五分の割合の金員を支払え。

控訴人その余の請求は棄却する。

訴訟費用は第一・二審を通じ、これを二分し、その一を被控訴人らの連帯負担とし、その余を控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らは連帯して、下野新聞紙上に、昭和二十三年三月十二日被控訴人黒川七郎方で不法に控訴人を部落より省く決議をしたことは申訳ありませんという趣旨の謝罪広告をなし、かつ控訴人に対し金五万円並びにこれに対する昭和二十三年四月十六日以降支払ずみまで年五分の割合の金員を支払え。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの連帯負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、「原判決三枚目表二行目に昭和二十三年三月二十三日とあるのは、昭和二十三年三月二十五日の誤りである。」と述べた外、原判決事実摘示記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

成立に争のない乙第四号証、原審証人上野徳一、上野信作、上野保信、荒井勇次郎、根本又郎、当審証人一ノ瀬末雄の各証言、原審における原告(控訴人)、被告(被控訴人)黒川七郎、同手島正一、同斎藤春治、同秋葉義夫各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を綜合すれば、(一)栃木県芳賀郡中村大字中字北中里部落は、四十五世帯からなる部落で、控訴人及び被控訴人らは、いずれもこの部落を構成する住民であること、昭和二十三年三月当時被控訴人黒川七郎は右部落会長(部落総代とも称する)で、かつ同部落食糧調整委員、被控訴人手島正一は同部落責任者、被控訴人斎藤春治は同部落供出責任者、被控訴人秋葉義夫は同部落耕地係で、いずれも同部落役員の地位にあつたこと、(二)被控訴人黒川七郎は昭和二十三年三月十日、同月十一日の両日部落常会を召集し、同被控訴人居宅に被控訴人ら及び控訴人を含む部落民約三十名が集合して、昭和二十二年度産米供出割当の調整について相談したこと、第二日目である三月十一日には中村長根本又郎及び管轄芳賀地方事務所員らも出席して同部落民各自と個々面接して追加供出を懇請したこと、その際根本村長は控訴人に対し米七斗の追加供出を懇請したが、控訴人はさきに指示された割当額を完納したのであるから、さきの割当額の軽重はともかくとして、超過供出の取扱をしてくれるならば米二斗だけ追加供出するが、それも超過供出の取扱をしてくれなければ供出しないと頑強に主張したため、他の部落民でさきに追加供出を承諾した者まで供出をしぶりだしたので、根本村長は控訴人の供出は部落を経由せず、村役場直接扱とするから、他の部落民は部落を経由して追加供出をすることとして一同の了解を求め、もつてその場を収拾したこと、(三)同年三月十二日被控訴人ら全部及びその他の部落民合計三十四名は被控訴人黒川七郎居宅に集合したが、その際、被控訴人黒川七郎は控訴人を「部落省き」にすることの可否を問い、控訴人とつきあい(交際)をする者は〇を記載し、控訴人とつきあいをしない者は白紙をそれぞれ投票することを求めたところ、参会者一同白紙投票をなし、今後村のことに関しては控訴人と一切交際しないことと決定したこと、その翌三月十三日右部落民上野徳一、手島宗三郎、斎藤千太郎らは控訴人方を訪ね、控訴人に対し部落省きの決議がなされたことを告げたこと、(四)その後被控訴人黒川七郎及びその他の右部落役員は、中村役場に出頭して、同村助役に対し控訴人を部落から除名することに決定したから、村役場の方でも控訴人を右部落と別個に取り扱つて貰いたいと申し入れたこと、(五)その後の右部落常会の席上、被控訴人黒川七郎は、控訴人をすべて部落と別個に取り扱うよう村長に手続したと公表したこと、(六)昭和二十三年三月二十五日に行われた右部落総代選挙にあたつて、控訴人の属する班(戦時中の隣組にあたる)の責任者(隣組長にあたる)上野徳一が被控訴人黒川七郎に対し控訴人に通知するか否かをたずねたところ、同被控訴人は、控訴人とはおつきあいしないことになつているのであるから、通知の必要がない、今後は村のことは何事でも一切控訴人には通知しなくてもよいと告げたため、右総代選挙の通知が控訴人になされなかつたこと(右通知のなされなかつたことは当事者間争がない)。(七)昭和二十三年四月二十日頃石川正市方で行われた食糧調整委員選挙にあたつて、控訴人は、その属する班の責任者(この時は上野信作)から聞いて出席したところ、被控訴人三宅雅一は、班責任者上野信作に対し、「今日は部落省きになつている者が来ているようだが、権利はないのだから帰つて貰つたらよかろう。」と要求し、同人をして控訴人に選挙をなさしめずに退席せしめたこと、(八)昭和二十五年九月二十日に行われた中村長及び同村会議員選挙に際し、中村役場吏員(庶務係)一ノ瀬末雄は、右部落連絡員手島宗三郎に控訴人及びその家族三名に対する投票所入場券を含む同部落民の投票所入場券の配布方を委託したところ、控訴人及びその家族に対する入場券のみ村役場に返戻され、次で村役場使丁に命じてこれを控訴人方に交付しようとしたところ、これまた村役場に返戻され、控訴人方には交付することができなかつたこと、をそれぞれ認定することができる。被控訴人らは、右「部落省き」の事実を否認し、右は控訴人の申出-希望により、供出その他の関係においてのみ控訴人を別扱にしたにすぎないと主張するが、右主張に副う原審証人石川勇治の証言並びに原審における被告(被控訴人)黒川七郎、手島正一、斎藤春治、秋葉義夫の各供述はいずれも当裁判所の信用しないところで、その他被控訴人らの提出援用にかかるすべての証拠によるも未だ右被控訴人らの主張を肯認するに足らない。

しかして以上の認定事実によつて考えると、昭和二十三年三月十二日に前記部落民によつてなされた控訴人を部落省きとする決議なるものは、村に関すること、即ち村または部落の共同生活に関することについては一切控訴人に通知せず、かつこれらの事については控訴人を関与せしめないという趣旨のものであつて、いわゆる共同絶交の決議に外ならないものといわなければならない。しかして右決議は右部落民全部、控訴人自身及び中村役場にまで通知され、少くとも昭和二十五年九月当時まで実行されて来たことは明らかである。

いつたい部落とは通常、町村の一部の地域に居住する住民の団体(地域的共同団体)を指すものであつて、今次の戦争中には町村という地方自治体の下部機構として部落なる団体を公認し、その機関として部落会なるものが設置されたことは公知の事実である。当該部落の地域内に生活する住民は好むと好まざるとにかかわらず当然部落の構成分子となるのが、この部落という共同団体の特色であつて、共同の目的の下に意識的に集合する集合団体と異なるものである。この地域的共同団体こそ人類の社会生活の基盤をなすものであつて、その一員として社会生活を営むことは人類の奪うことのできない権利であるというべく、従つて法の正当なる手続を経ないで単に住民多数の意思を以て他の住民からこの権利を奪い、または極端に制限し、ある意味における追放処分に附することは許されないことである。もつとも、右地域の一住民が他の住民と交際しないことはその好むところに従うものであつて自由であるであろう。しかしながらいかなる理由あるにもせよ、一部落四十五世帯中の三十四世帯という絶対多数の住民が共同して右部落の一世帯に対し村または部落のことに関しては何らの交際をしないということを決定し、右決定を実行することは、部落なる共同団体の自治的になし得ることの範囲から逸脱するものであつて、その動機が控訴人の供出不協力に基因し控訴人の反省を求めるにあつたとしても、右事実は右共同絶交の決定並びに実施を正当化するに足らぬものというべきである。何となれば、かかる共同絶交なるものは、当該部落内における追放処分であつて、かかる処分が排斥された住民の社会的評価をいちじるしく傷け、その名誉を害することは説明をまたないところであり、法の正当なる手続によらずしてかかる重大なる利益剥奪の行為をなし得ないものであることは法治主義の原則の重大なる要請であるからである。従つてかかる共同絶交が他に特段の理由なき限り不法行為を構成することは疑いなきところであり、被控訴人ら主張の諸事実は未だ以てこれが成立を阻却する事由となすに足らぬ。

しかしてさきに認定したように、被控訴人らは、部落多数の者と共同して控訴人と絶交することを決定し、この決定を少くとも二年有余にわたつて実行したものであつて、その間控訴人を社交上排斥してその社会的評価を傷け、もつて控訴人の名誉を害したことは明らかであるから、これによつて控訴人の蒙つた精神上の損害を賠償する義務があるものというべきである。しかして成立に争ない甲第七号証の一、二によつて認められる控訴人及び被控訴人らがそれぞれ相当の耕地を有する農民であること及び前段認定の諸事実を参酌するときは、控訴人の蒙つた精神上の損害に対する慰藉料は金一万円が相当であると認定する。よつて共同不法行為者たる被控訴人らは連帯して右金員及びこれに対する本件訴状が被控訴人らに送達せられた日以後であることが明らかな昭和二十三年四月十六日から支払ずみまで民法所定の年五分の遅延損害金を支払うべき義務がある。

更に控訴人は被控訴人らに対し謝罪広告をなすべきことを求めているけれども、本件においては諸般の事情に照し控訴人の名誉を回復するための謝罪広告を命ずることは相当でないと考える。

よつて控訴人の本訴請求は、以上説明した限度内においてこれを認容し、その余を棄却すべく、これを全部排斥した原判決は不当であるので、民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条、第九十二条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 大江保直 梅原松次郎 猪俣幸一)

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